おしゃべりきものⅡ-または、おしゃべりねこ

「おわりの雪」

1月14日 月曜日 曇り 1度・・5度


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 「ぼく」は小さな町で、病気でベッドに寝たきりの父と、夜になるとそっと家を出て行く母と3人でくらしている。まだ青年ではないが、父の長靴を履くようになって2年めという少年。
 老人ホームへ行き、園内の散歩の手助けをして幾許かのお金を貰う。お金は半分母に出す。古物屋が、自動車の部品などと一緒に店に出した、籠に入った鳶が欲しくて仕方が無い、毎日見に行く。鳶を買うだけのお金はなかなか貯まらない。
 ホーム管理人の妹が、生まれたばかりの子猫たちの始末を頼みに来る。それで払われる金額。ぼくは引き受けて、袋ごとぬるま湯に沈めておぼれさせた。もう一度引き受けたあと、管理人がその仕事を断る。
 次は老いた犬の始末。その報酬の金額を頭から追い払うため雪道を歩き回るが、鳶ほしさに苦しみ、犬、鳶、犬・・夜更け、管理人の家へ引き返し、明日朝早く犬を連れにくる、ぼくが買わないと凍え死ぬ鳶がいる、と。

 朝、暗いうちに犬を迎えに行き、零下10度の雪道を歩きに歩く。引き綱も捨てて犬を走らせるよう仕向けたり。霧が出て、暗くなり、弱り切った犬を見捨て走って帰る道、立ち止まる事が出来なくておしっこをもらしてしまう。
 深夜家に帰り着き、ばりばり凍ったズボンを脱ぎぱんつを脱ぎ、脚を洗う。洗って椅子に掛けたズボンから水滴が落ち続ける、その音にわずかに安らぐ。
 鳶を買った。鳶が来る前から父に語っていた、この鳶はどのようにして掴まえられたか、という空想を、父は毎晩語れという。夜、母が出ていくドアの音、灯りが消えるカチッという音も父に苦しい。ぼくは鳶の籠を載せた椅子を、毎日数センチずつ父のベッドに近づける。
 ぼくは毎晩、蛇口を調節して、水滴が落ち続けるようにする。その音を聞きながら、雪道をひたすら歩く道のりを辿り、ようやく眠る。朝になると水は止めてある。ぼくが眠りに落ちる前に母が帰って来て蛇口を閉めるのを恐れていた。
 冬が終わらないうちに父は死んだ。

 いしいしんじが、五回読み返してもすべてを読み終えたと思ったことが一度もない、と書いている。それがわかる気がする。これがぶんがくだなあ、と、その深淵を覗く。

 私は三回読んだ。夜の雪道の描写に、何十年も昔の真冬、魚沼の夜更けの国道を、怒りと絶望をもってただ歩き続けたときのフラッシュバックあり、目覚めて寝付けないことが三晩続いた。国道は深夜も大型トラックが通り続ける。傘もささず黒い身なり、歩道のない道。降る雪とトラックの撥ねる雪水にずっしり濡れて戻り、風呂場で脱いでいるうちに、炬燵にいた長女は二階へ行った。待っていたのだと思う。長女にそのざまを見て貰ったのは良かった。私のもっとも苦しい時代の始まり。

何十年も前に終わった事。終わったことはもう無い。



 

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by buribushi | 2019-01-14 22:08 | | Comments(7)
Commented by mikeblog at 2019-01-15 00:16
人生は山あり谷ありだというけれどいつも谷ばかりでは無くて、谷の中にも山があるし山の中にも谷がある、とか。とにかく感情のある動物だから厄介です。まずは自分を守りつつ余力で他人を守り、他人からも守ってもらう。できたらボランティアなどで社会に貢献する。ただ守ってもらうだけの人もいる・・。
な~んてどこかの本に書いてあったような気もします。人生いろいろ、川の流れのように、でしょうか。今は歌謡曲は流行りませんね。
Commented by kazuyoo60 at 2019-01-15 07:00 x
主人公の「ぼく」、やむを得ない事情としても、鳶以外は、自分と同じ生き物とは見られなかったのでしょうね。
自分勝手なところは、それぞれの中に潜んでいると思いながらです。
Commented by buribushi at 2019-01-15 09:25
ミケさま
いい文学ではあるんでしょうけど、おばーにはしんどかったです。
寝る前に読むものは郷土料理の本とか、花の本、旅行の話、着るもののはなしなど、気持ちに重くないものがいいな。済んだ事を呼び出しても仕方無いです、気をつけます。
Commented by buribushi at 2019-01-15 09:30
kazuyoo60さま
いえ、その後水滴の音を聞きながらでないと眠れなくなっちゃったんですよ。蛇口の締め方で水滴が落ちるようにして、朝になるときっちり閉まっている。「ぼく」が眠りに落ちる前に母が帰って来て水を止めるのを恐れていました。
それほど鳶が欲しかったけど、傷つかないで済むわけがない。
Commented by buribushi at 2019-01-15 09:39
鳶は何かの象徴だっだでしょうか。
Commented by tsunojirushi at 2019-01-15 13:06
このような作品をどこでどのようにして見つけられるのか、と思いながら拝読。
作品に出会うことも才能の一つなのかなあと思うのです。
Commented by buribushi at 2019-01-15 17:59
tsunojirushiさま
どこでどうして見つけたか、覚えがないのですよ。この作家。
わたしは「思無邪」だから不眠なんか関係無い、と思っていたのに、パッチリ醒めて闇を睨む、が3晩続いてしまった。
昨夜はもう、よく眠りました。思い出し、それをここで喋り、排毒出来たのでしょうか。



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