おしゃべりきものⅡ-または、おしゃべりねこ

かりそめのひとよにあひて-歌集「会ひて別るる」

  仮初の一代に会ひて別れゆく夫子か寄りて紅き蟹食む

浦野文子歌集「会ひて別るる」は1988年発行。
追憶の風景にはあらず、目の前の、食物を囲んだ家族を、仮初めに会って別れて行くものとして詠った作品は心に深く刺さって忘れない。私の持ち得なかった、生への俯瞰性というか、その醒めた眼。

  あるままを楽しみて人は過ごしけむ埴輪の面みな安らけし 
  バネ押せば鑿跡拙き木の熊が仔をひしと抱くシベリヤ土産
  「シベリヤに安けく老ゆ」と声かけて子をひきとめし日本人思ふ
  病みてより心平らぐ人の世の大事大方われに用なく
  藍深く桔梗朝顔咲き出でぬひとまず癒えし生命を惜しむ
  幼子になす如く鰻一切れをわが皿に移し老父笑ます
  若き日のありなしの縁遠遠に人死にたるを新聞に見つ
  甘き菓子その手に載せぬ老い老いし父の面に笑みを見むため
  おほかたの身の嘆きごと過ぎたりと高架ホームに夕日浴みゐつ
  夫子らと会ひて別れし仮初の四十五年をある夜数ふる

作品は引かなかったが、事業のため、住んでいる家を黙って売る夫。突然仕事を止めて外国へ行き、いつのまにか結婚して子を持っていた息子。みずからの病。老い深まる親。

埴輪の顔つきに、古代の人は楽しく過ごしたのではないかと思う。
不出来な木彫りの熊がひしと小熊をいだくさまを、繰り返し見る。
これらの作品に、寂しさを深く、固く、ひそめて生きる若からぬ女性が思われて。
このほかにも、夜の土を「ひたりひたり」と歩くヒキガエル(文字が出なかったために引用しなかった)とか、旅の終わりに手に入れたしゃがの花の咲くさまに心を遊ばせる歌などもあった。
癌を病んで「心平らぐ」という真実。
夫は亡く子は独立したのち、もう一度仮初めの語は出て来て、それを45年と数える。

許されるものならいだきついて泣きたいようなこの作者、ご存命ならば90代後半か。



by buribushi | 2012-07-24 11:06 | | Comments(6)
Commented by kazuyoo60 at 2012-07-24 13:26 x
>自が性を曲げて
とはいえ、多くの場合、折り合いをつけて生活されてるのではと思うのですよ。
物事を深く見つめるのに苦しい人は、歌の世界からは遠いでしょうか。
Commented by buribushi at 2012-07-24 13:44
kazuyoo60さん
ごめんなさいその歌消しましたね。再録しましょう、と、思ったら、何百首のなかでとっさに見つかりません、重ねてごめんなさい。
いえ、もっとも歌に近いのではないかと。
歌にすることで昇華して、苦しみは消え表現の喜びが残ります。
この作者に歌が無かったら苦しかったことでしょう。
「異国に何してをらむ子はわれの病みしも知らず癒えしも知らず」

Commented by coralway at 2012-07-24 17:54 x
すばるさん
昨日の18時ころブログを更新しておやすみなさいと言っといて、もう寝たか?と思ったら22時ころ起き出して、まーだゴソゴソして。

本当に、○○の自覚がないからな。

そんなことでは沖縄で、みーきゅるきゅるしたら、空がグルグルしますよ(笑)
Commented by buribushi at 2012-07-24 19:44
coralwayさん
自覚の問題もあるしねー、○○は眠る時間が短いので、早く寝ると寝そびれてしまいます。
寝付けないでマジマジとしているとね、どんどんマイナス思考になってくるので、いかん!と起き出してゴソゴソ。
そーゆーわけですよ。
coralwayさんもおじーになるとわかる。
Commented by ikoka at 2012-07-25 09:50 x
子供はいつか独立していくものだけど、いつの間にか結婚して子をもっていた、なんてちょっとね~。わたしの従妹もそんな感じで、籍も入れずに出産し、お金なくて産院から連絡してきたおおばかもんがいるけど、親の嘆きは相当なものでした。そこを通って、仮初だと思うようになったのかなあ。切ないです。
Commented by buribushi at 2012-07-25 11:47
ikokaさん
そうですねー、独立にもほどがあります。
やはり、陣痛が始まってから親に白状し、シングルマザーになった人を知っていますが、昔者の親は肝をつぶしますよ、それは。
家は上二人まで自分でさっさと決めて来たので、ああそうか、こどもは放って置けば自分で決めるのか、とおもっていたら、3人目がそうでなくてね。
40代になってしまったけど、ま、仕事が面白くて機嫌良く働き、そこそこおまんま食べられて、健康で暮らしているので、よしとしています。少しうらやましかったりして。

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