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おしゃべりねこ

銀の匙

銀の匙_a0203003_1126947.jpg

中勘助「銀の匙」4冊。もちろんみんな私の本棚から。
1991年に発行されたワイド版は別として、文庫版は昭和24年発行の第14刷。昭和28年発行の第25刷。1988年発行の第85刷。(初版第1刷は昭和10年発行)

28年発行のものが初めて自分で買ったもので、24年は貰い物だったと思う。
何遍となく読み返したので汚れているこれらの本、文庫版の古い方から2冊と、それ以後に違いがあって、それは私にはとても大きいものに感じられる。1962年(昭和37年)を境に新仮名遣いになったのだ。

1ページ目から、旧版は
「もとは舶来の粉煙草でもはひつてゐたものらしい。」それが改訂版になると
「もとは舶来の粉煙草でもはいってたものらしい。」
「はいっていた」ならわかる。「はいってた」とはなにごとか。
舶来の粉煙草の薫るところが、ただ粉っぽく埃っぽくなってしまったと、私は思った。

「珍しい形の銀の小匙のあることをかつて忘れたことはない。それはさしわたし五分ぐらゐの皿形の頭にわづかにそりをうった短い柄がついてゐるので、」は、
「・・・短い柄がついてるので」とこれも早口である。実に気に入らない。
仮名遣いの新旧を変えるにとどめて、こういう小細工はしないでもらいたかったと、憤懣やるかたなし。

旧版は戦後間もないころの発行だから、紙質がよくなく、印刷もいいとは言えない。それでもこちらしか読みたくない。

「銀の匙」は、どれだけ人に贈ったかわからないほど何回も求めたが、いまある新版は、そうして買いながらそのままになってしまったものだと思う。

本を好きな人に、本棚の中味減らしに協力してもらうことになっているが、私の子よりはるかに年下、という若い人だから、新版「銀の匙」も入れさせて貰うことにした。



以下覚え書き

文庫本の「銀の匙」を四冊持っていて、昭和24年、28年、1988年、1991年の発行です。
旅先で読みたくなって買ったり、人に貸している間に読みたくなったりして増えました。

前2冊と後のに大きな違いがあります。
初めて改訂版を読んだときわが目を疑いました。
「もとは舶来の粉煙草でもはひつてゐたものらしい」が、「はいってたものらしい」になっていました。
「はいっていたものらしい」なら仮名遣いが変わっただけですが、「はいってた」とは何事でしょうか。
薫り高い舶来煙草と、埃臭いだけ、いや、もっと根本的な違いに思えます。
銀の小匙まで、「わずかにそりをうった短い柄がついてゐるので」が「ついてるので」
もう、「一」の中だけでさえ、「眺めてゐることがある」が「ながめてる」。「忘れられてゐたのである」が「忘れられてたのである」と、次々出て来ます。

古い方の版に(いま気がついたら新しい版にも)和辻哲郎の解説がありますが、「・・文章に非常な彫琢があるに拘はらず不思議なほど真実を傷つけてゐないこと、文章の響きが好いこと」と、夏目漱石がこの作品について指摘し賞賛したことを記しています。
「改訂」は仮名遣いに止めるべきです、この名作に何故こんな無礼が行われたのか、理解出来ません。
作者に無礼、長年の読者に無礼、改訂版でしか読むことの出来ない若い読者に無礼、と思っていました。
今日あらためて、最初に価値を認めた夏目漱石にも無礼、改訂版にも同じ解説を載せられている和辻哲郎にも無礼だと思います。
お願いですから、今からでも、仮名遣いの他のこういう「い」抜き文体を直してください。
いったいどのくらいあるのか、数え初めて、悲しみと立腹のために止めてしまいましたが、万一必要とあらば何ページ何行目のどの言葉、と、数えてもよろしいです。
長年いろいろ読ませて頂いている天下の岩波に、初めてお便りするのがこれでは心苦しいのですが、長年、つらいと思って来て、最近自分のブログに書いたところ同じ意見の人が多かったので、蟷螂の斧を用いる気になりました。
失礼の段お詫び申し上げます。



by buribushi | 2012-02-23 11:58 | 本・短歌など | Comments(12)
Commented by kazuyoo60 at 2012-02-23 19:28 x
岩波文庫のこの表紙、昔読んでいました。懐かしいです。すっかり読まなくなっています。何年かすれば、また、思いが変わるかな、それまで生きていればですが。(笑い)
Commented by buribushi at 2012-02-23 19:47
kazuyoo60さん
文庫本というものが岩波しか無かった時代の後、昭和20年代に角川文庫が出来て、新潮文庫が出来て、その新鮮なときめくような気持ちを覚えています。
すべてに乏しい時分だったので、本もほとんど買えませんでした。高校生になってから、小遣いを使わないようにしておいて文庫本を1冊ずつ増やしました。当時の本は今も捨てられません。
今より厳選して買っていました(笑)。
Commented by obakappu at 2012-02-24 00:39
この、「い」ぬきの文が私も大嫌いです。
子供たちの文で、必ず直します。なかなか治らないですが、公にする文や、先生に提出する文、テストの文では、必ず入れるように指導しています。
「い」を抜いていいのは、話し言葉、中のいい同士の手紙だといっているのですが、なかなか守れません。
Commented by obakappu at 2012-02-24 00:43
高校のときの国語の先生が、日本語もだんだん変わっていくものだといっていたのを、良く思い出します。
「改」という漢字の左側ははねないものだったのに、最近ははねてもよくなりました。「まちがえ」を名詞に使うのも最近はOKになりつつあるようです。「情けは人のためならず」を、{ひとのためにならない}とするのもOKになっています。
高校の国語教師を思い出す機会が増えつつあります。
Commented by buribushi at 2012-02-24 10:57
obakappuさん
ほんとうに、何十年も繰り返し読んで来た、薫り高い名作に、なんということをするのでしょう。

情けは人のためならず の、解釈が違って来ているとは聞いていましたが、それでもいいんですか、やれやれですね。

高校の国語(古文)の時間に、「先生、この・・・・はどういう意味ですか」
先生、水が流れるようにさらさらと「仲良くすること」
「どういう風に仲良くするんですか」
またさらさらと「それは君の方がよく知っておる。はい、君、次読む。」
生徒は頭を掻いて、流暢ならざる朗読をしました。先生の完勝。
男女のことだったんですけど、その言葉が何だったのか、近年まで覚えていたのに忘れました。
60年近い昔の話ですが、名授業だったと思います。
Commented by buribushi at 2012-02-24 11:01
「契る」でした。
Commented by 居酒屋猫まみれ at 2012-02-24 20:16 x
こんばんは。
日本語は奥深く難しい。でも大変美しく情緒あふれる言語ですよね。
私のような昭和の真ん中生まれの人間は
古き良きものと、新しく格好いい(つい、かっこいい…になってしまいますなー)とされるものの狭間で育ってきました。
しかしながら、話し言葉の変遷にはついていけないです。
意味不明な言葉や、なんでも略す(スマホ、ファミレスなど)のがどーも....、
記されるコトバと、話すコトバに差があるのは仕方のない事ですが
あんまりのひどさに目が点になることもしばしばですね。
また、その単語の持つ意味すら新しい使われ方をするものがあって
戸惑います。
なんだか、今、
中学生の時に夢中で読んでいた武者小路実篤が読みたくなりました。(当時読書嫌いの私が何故かはまってしまった)
Commented by buribushi at 2012-02-24 20:35
居酒屋猫まみれさん
コトバは好きですねー。今の略語はキライですねー。わたしも。
新しく何か読むのも好きだけど、本棚の古い本も始終引っ張り出して読んでいます。
活字中毒を通り越して活字依存症かと思うことがあります。
字を読めるようになった5歳くらいから、読むものを与えて置けば一日中でも座っていたというし、今もどっぷり本に入り込むと何も聞こえません。もういまさらどうしょうもないですね。
武者小路実篤を読んで、毛呂山の「新しき村」へ行って見たことがあります。行って来たというだけですけど。
Commented by t-haruno at 2012-02-25 16:52
「はいってた」
ですって?
ううむ、脱字なんじゃないか?と思ってしまうほどのひどさですね。
格調のかけらも無いです。
それと、柄についての文章ですが
「短い」の先に来る、細かい描写が省略されてしまっている
ということなのでしょうか??????
ひえええ。もしそうだったら許せません。
作家が、鶴の機織りのように、それこそ身を削るようにして作り出した文章を
編集者が、何の権限があってそこまで出来るのか
と、段々コメントを打ち込んでいて怒りが増してきました。
本当に、仮名遣いを変えるだけが、出版社に許されたことだと思います。悩ましいことですね。
Commented by buribushi at 2012-02-25 17:20
t-harunoさん
ほんとにイワナミともあろうものが、何のつもりでこんな無礼なことをするのでしょう。作家に無礼、長年の読者に無礼、改訂版で初めて読む読者に無礼。
いやいや、「短い」のところに限らず、描写そのものはまさか省いてはいませんが、「・・・ていた」を「・・・てた」の例は、数え初めて悲しくなって止めるほど、たっくさん、ありました。
ひどいですねえ。
イワナミへ言ってやりますか。
Commented by 居酒屋猫まみれ at 2012-02-27 13:16 x
覚え書き
読ませていただきました。
実際、編集者さんも若い世代の方が多くなってきていると思うのです。
でもだからといって、まかり通るものではありませんよね。
少なからずや日本文学を学ばれた方達のはずです。
理解してほしいですね。
Commented by buribushi at 2012-02-27 13:42
居酒屋猫まみれさん
戻って頂いて恐縮です。
田舎の一オバーが言ってもなんにも感じないかもしれないけど。
今日、夫が購読している勝谷誠彦の読者投稿欄にも同じ文を送りました。
私の「目の黒いうちに」再改訂が実現したら、かの、住民投票実現の闘争と並んで、私が娑婆にいて何をしたか、の二大メダマになると思います。えいえいおー!

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