おしゃべりきものⅡ-または、おしゃべりねこ

森茉莉「ドッキリチャンネル」全巻

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週刊誌に長く連載されて好評だったという「ドッキリチャンネル」は、森茉莉の文筆生活のほとんど最後のあたりで、「わたしももう年なのでこういう軽いもので終わりたい」と言っている。
中野翠編「ベスト・オブ・ドッキリチャンネル」しか読んでいなくて、まとめて読みたかった。全集に入っている、と言われても、古本で1万円する。
幸い市の中央図書館で借りる事が出来た。1冊700ページを越える大冊が2冊。
つねに業物(わざもの)を身に帯びて、寄らば斬るぞ、寄らなくてもこちらから斬りかかって、ずん、ばらりんと斬り捨てる。読者は喜んだだろうし、有名人はセンセンキョウキョウだったという。

人物批評の間、間に作者の子ども時代や、父鴎外との思い出、「一本気」がかたちになって縮緬の羽織を着たような母が、姑や「世間」に理解されにくかった無念、自身の短い結婚生活、配偶者や、やはり世間に、抱く無念。
配偶者の父や、同居しているその妾(しょう)の魅力ある人物もちゃんと描かれている。
独り者になって、文筆で生活できるようになって行くまでの、貧乏だけど不便なだけで辛いとも惨めとも思っていなかった日々。
室生犀星に理解され、幼い子どもを見るような目で包まれていたこと。そのほか彼女を理解した文学者のこと。

こういうことを毎週書き続ける事が出来て、大作の小説を書いたのとは別な、大きなカタルシスがあっただろうなあ、茉莉さん良かったねと思う。

親は十七歳の彼女を見合いで早々と結婚させた。ご飯が炊けないどころか自分で薬缶に水を入れて沸かしたこともない茉莉は、女中の沢山いるような金持の家に嫁がせるのがいいだろうという判断だったという。
10歳年上の夫が、猜疑心が強くつめたい人物だったことが徐々に分かって来るエピソード。さらには、性生活が貧しいものだったらしいことも、決して品を落とさない書き方ながら、注意深く読めばわかるようになっていたりする。
喧嘩ばかりしている夫婦、というものはまだ愛がある。ほんとうに凍り付くような冷たい夫婦は喧嘩どころか会話も無い。とあって、あらぬ疑いをかけつづけられた彼女が夫への手紙を長男に託して一人で去ったのは致し方の無いことだった。

どこにあったっけ、と、大冊のページを掻き分けてもう一度読んだ記事。「今や不敬罪はないのでいい気になって言わせていただく」として、皇位を継がれる方は賢いだけではだめで人間の偉きさ(おおきさ)がなくてはならない。私のお推し申し上げる次の天皇は・・・と、名を挙げている。
今の天皇は駘蕩として、偉きい。私はもう余命が少ない。私が生きている間は今の天皇にご存命願いたい。とも書いている。
何時書かれたのだろうと見ると、1980年代。30年も前にこんな事を言っている。いま、人々が(私が、といわないのはずるいけど)口に出さないだけで思っていることを、彼女はその頃すでに見通していた。すごいおばあさん。ほんとの文学者。



by buribushi | 2015-06-01 13:35 | | Comments(6)
Commented by 沙久良湖 at 2015-06-01 22:03 x
この本、何とか探してぜひ読んでみたいです。
人と話すときは思い切ったことを言うのは勇気がいるので、そこそこの話題で終わったりしますが、それなら読書をしている方がずっと身が入るというか、収穫が多いですね。
すばるさんの読書感想文もまた素晴らしいです。

Commented by buribushi at 2015-06-01 22:35
沙久良湖さん
この本、手に入れようと思ったんですけど、古本で1冊1万円しました。
幸い図書館にありました。あんまり大冊で、期限までに読めるかなと思いましたが、面白くて、後戻りしたりしながら読み終えました。
ドッキリチャンネルで、この人のどういうところが厭かを一刀両断していますが、気の毒なと思うことは無くて、そうだ!そうだ!と拍手したいことだらけで、胸がすかっとしました。お勧めの本です。
全集のほかの巻も借りようと思います。
Commented by mikeblog at 2015-06-01 23:02
すばるさんの説明文もすばらしいです。ウチの図書館にもあるかな。人間は本当に言いたいことは言えず、2番目に言いたいことを言っているんだそうです。森茉莉さんはさすが、お父上の鴎外さんのお子様ですね。
Commented by buribushi at 2015-06-01 23:30
ミケさん
この本はお勧めです。
ただ700ページあまり、は重たく、寝ながら読んで顔にバタッと落とすというわけには行きませんでした。この方、文学者になるしか無かった人ですね。
妹の杏奴さんの本も、文庫本だけど読みました。またちょっと違った鴎外像?
Commented by t-haruno at 2015-06-02 15:44
明治の文学者は男性が多く、随筆であれやこれや個人的な悩み事を書いた結果、
奥さんは「悪妻」と世間の評価が定まっちゃった人が少なくないですよね。
夏目漱石夫人や、↑の鴎外夫人なんて、
メルケル首相やヒラリー・クリンントンが活躍する今の時代なら
どれほどの人物であったことか
と思います。
逆に、漱石や鴎外は、今の尺度から見ると、自分でごはんも炊けないおっさんに見えたり。
茉莉さんも、そいう時代の結婚で、苦労されたことと思いますが
長生きして、時代の息苦しさから解放されて、ドッキリチャンネルも書いて、皆から毎週楽しみに待ってもらって、良かったなぁ!!
と私も思います。




Commented by buribushi at 2015-06-02 17:53
t-harunoさん
そう、旦那さんが書かなければね。書いた方勝ち、みたいになっちゃう。
奥さんだって言うこといっぱいあったでしょうに。
鴎外夫人は真っ直ぐで、冗談が通じないようなところがあって、さらにそこへ鴎外が外面が良くて、自分で断らないで奥さんにさせたりしてたのね。
茉莉さんはお母さんの分まで敵討ちしたでしょうよ。
彼女は料理のセンスはあった人みたいだから、急いで嫁になどやらず仕込んでやって、けっこうヒネてからゆっくり好きな人を見つけて結婚したらどうだったかなんて、いまさらのことを考えます。鴎外、自分が年取っていたから急いだのか。拙速。
でもまあ、自分を不幸とは思っていなかったようだし、最後に言いたいだけ言えて良かったね、茉莉さん、と思います。

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