おしゃべりきものⅡ-または、おしゃべりねこ

本は目で食う大福もち-続きの続き

昨夜は、お客さんと一緒に飲んだお茶のせいか、本ばなしを長くしたせいか、床についても少しも眠くならなかった。
夜半、文庫本の詰まった本棚の前へ行って、「津軽の野づら」「贋修道院」の2冊、鈴木三重吉「千鳥」、室生犀星「性に目覚める頃」、豊田正子「粘土のお面」、を抜き出して来た。

「千鳥」は三重吉の処女作であり、「人物も事象も背景そのものも、すべて空想ででっちあげた」と本人の言葉にある。
この短編集にある「おみつさん」、やはり部分的にもことごとく空想でこしらへた、とあるが、私はこの話がとても好きだ。広島の言葉か、やわらかな方言での会話がこころよく、祖母に育てられているらしい少年の日々が淡々とつづられる。全体に古風であるのに、物語は古びていない。

「いけんのう。どうおしる。」
「なんの、もういいのぞい。かうして寝て起きたら、あしたになれや早世話はない。しかしもうわしもつまらぬものになったわいの。」
「お父さんが早うお帰るとええのにのう。」

少年が外から帰るとおばあさんが寝ていて、彼のご飯を蓋ものに入れてハンカチに包み、炬燵に下げて暖めてある。彼は小さい赤いお膳を下ろして、赤い箸で、胡麻塩の振ってあるご飯に筍の煮たのを副えて食べる。おばあさんは具合が悪いのかと尋ねるところの会話である。「こしらへもの」であっても、事実よりもなお真実である。これが文学だと思う。
しんみりした美味しいものを少しずつ食べるように、繰り返し読みたくなる。

「津軽の野づら」では、焼物の修行がしたくて郷里を出奔した少年と、彼の子を一人で生み、育てているアイヌの少女の話が、不自然なところはあるが好きだし、料亭の女将になった友だちと、芸者になった教え子の出て来る話は、「流れる」を書くために花柳界に住み込んだ幸田文のことを思い出すほど生き生きしていた。
前半の、恋文や恋愛・出奔の出て来る話は面白くなかった。若気の至りで書いてしまったと、作者が後悔しはしなかったか。昇華のない話は、もう読まなくていい。
「贋修道院」、香料を入れすぎた菓子のように上っ調子で、老人の口に合わなかった。



by buribushi | 2012-11-24 21:35 | 本・短歌など | Comments(4)
Commented by sharlly3 at 2012-11-25 10:13 x
良い文章に出会って幸せです。
良い本を読んで良い表現、  イイですね~

普段 興味本位で読書する身には心が洗われます。
Commented by kazuyoo60 at 2012-11-25 11:09 x
昇華、良い言葉ですね。辛さ苦しさも年月と気持ちで昇華でしょうか。
Commented by buribushi at 2012-11-25 11:50
sharlly3さん
そうですね、読む楽しみはなにものにも代え難いです。
10代からの文庫本が随分溜まりましたが、今回随分久しぶりの本も読み返したら、古酒になり損ねて酢だった、というのもありましたね。
60年経ってもひたひたと心を満たす本もあるし、放り投げたいような本もありました。若気の至りの本に、若気の至りで共鳴したのでしょうか、お恥ずかしや。
古本屋にも払えないほど、ぼろになったりシミの出たりした本をストーブにくべました。
Commented by buribushi at 2012-11-25 11:55
kazuyoo60さん
どんな辛いことでも、さまざまな欲でも、ほんとうに書ききってあれば「あー、人とはそういうものだなあ、生とはそういうものだなあ」と思いこそすれ、不快ではないはずです、
読んでイヤな気持ちがするのは、書く人が純粋でないのだと思い、
それが分からなくて喜んで読んでいたこちらの若気の至りを思います、60年経っていて、少しぐらいは読み手も変化が無くてはね。

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