おしゃべりきものⅡ-または、おしゃべりねこ

「しずかな日々」を読む

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ふと目に止まった文庫本。椰月美智子「しずかな日々」は、よくぞ出会った。手元に置いて読み返す本になると思う。

母と二人暮らしの小学生「ぼく」は、成績も運動もぱっとせず静かすぎるような子だったが、5年生になったときの組替えで出会った友だちに生まれて初めて野球の仲間に入れてもらう。ひやかされたりからかわれたりしながらも楽しくて仕方がない。

仕事を変わるために遠くへ引っ越すという母に、転校したくないと言い張る。1年生の時一度だけ訪ねたことのあるおじいさんは、彼のほんとうの祖父だった。夏休みに祖父との生活が始まる。井戸や沢山の木がある庭。がらがらと毎朝引き開けられる雨戸、長い廊下のある家。彼は毎日廊下を拭き、庭に水を撒く。

祖父は毎日美味しいごはんを炊き、出汁を取って豆腐の味噌汁を作り、糠味噌漬けを作る。糠味噌漬けと熱いお茶を振る舞われた彼の同級生はみんな祖父の漬け物のファンになった。
おかずは彼が作る、母と暮らしていたときから作ったことがあるので、炒め物や甘い卵焼きを作って祖父に美味しいと言われる。祖父は毎日自分で作った大きいおむすびを持って仕事に行く。
母達の帰省についていかなかった同級生、押野が祖父の家に一緒に泊まった日々もある。

母は、その両親である祖父母に反発して早く家を出たらしい。10年ほど後、結婚したい男と1度訪れる。1歳の「ぼく」と1度、それから1年生のぼくと1度。ぼくの父親は事故で早く亡くなったらしい。いま、母の仕事は占いかなにか、神秘的な世界らしく、さまざまがあった後そこでうまくやって行くようになったようだ。そういうことは読みすすむとだんだん分かってくる。
祖父は85歳の時、まだ足腰も頭もしっかりしているのに、「隠居だ」とさっさとホームにはいってしまった。彼が行っても相変わらず「おう」というだけで余計なことは言わない。
彼は一人で祖父の家に住み、勤めから帰ると祖父譲りの漬物でビールを飲むのが楽しみだ。

一つの夏休みのはなしに過ぎず、淡々として明るい寂しさのようなものが流れているが、先生、祖父、彼を初めて野球に誘った同級生押野、その姉、など、人々がみな魅力的で、彼の一生の大切な時期だったと分かる。後味がよかった。

「人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きて行く」というのが結びである。



by buribushi | 2012-11-22 08:43 | | Comments(8)
Commented by kazuyoo60 at 2012-11-22 11:10 x
お祖父さんへの思いが、ぼくへの思いが、かけがえのない優しさを伴っています。良い作品ですね。それに、ご紹介が素晴らしいです。
Commented by buribushi at 2012-11-22 13:28
kazuyoo60さん
この作家は今まで知りませんでした。
他の本を探していて、ふっと目にとまったのですが、出会えて良かったです。この作家の物がまだ他にも会ったのを見ていますので、つぎの機会にまた買って来ます。
これは講談社文庫、500円でした。
Commented by はれるやさん at 2012-11-22 18:33 x
すばるさんこんばんわ。
ぼくを取り巻いている人間関係、さらっと過ぎているようで、深いものがありそうですね。
↑同様に、内容の要約が解りやすく、さすがです。
Commented by buribushi at 2012-11-22 19:36
はれるやさん様
自分にそういう世界、そういう生活があったわけではないのに、
何故か懐かしいのです。
読むにこころよく、さらさらと読んでしまい、あとに、
上等のお茶とお菓子を食べたような満足が残りました。
この作者の本は文庫本だけでもまだ何冊かあるようなので、
それも読みたいと思っています。
Commented by ohisama at 2012-11-22 20:42 x
椰月美智子さんを検索したら70年生まれのお若い方なのですね。
著作も多数ありました。何かほのぼのとしたお話ですね。
私も図書館で探してみようと思います。
Commented by buribushi at 2012-11-22 21:20
ohisamaさん
そう、私などからすれば、うら若いと言いたいくらいです。
まだ何冊も著書があるようなので、楽しみです。
むかし好きだった作家は亡くなったけど、こういう若い人なら
私が生きてる間ずっと読ませてもらえるかな、と思ったりします。
Commented by ミミの父 at 2012-11-22 21:25 x
姉は二人いたのですが、小学校高学年の頃から母と二人暮しみたいな感じでした。仲間と野球がしたくて学区外に引っ越したのですが、転向せず歩いて通いました。
小さな物語はみんなにあるんでしょうね。f^_^;
Commented by buribushi at 2012-11-22 21:39
ミミの父さま
小学校・中学校時代ねー。半世紀なんていうものではない遠い昔。
こどもの時から本が読みたくて本が読みたくて、時間さえあれば
座り込んで読んでいるような、いま思えば小さい変人でした。
「ぼく」に似たような懐かしい光景は、母の生家、かなー。
只見線沿いの小さい村ですが。

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